人目を気にせず、おっぱいを。授乳スタイルと産後復帰を考える。

IMG_8786パステルカラーのワンピース、新入学やセレモニー用のシックなドレスなど、春らしいラインナップが充実。

ここは東京、青山のとあるビルの一角。店内右側のラックには一見普通のレディースウェアが奥までずらりと並んでいるものの、左側のスペースにはなぜかベッドがふたつ、しかもカーテンで覆われるようになっています。その向こうには肘掛けが片方しかないイス、そして赤ちゃん用のベッドとまるで助産院のよう。それもそのはず、ここを訪れる主なお客さんは小さな赤ちゃんがいる産後の女性なのです。

今年10月に10年目を迎える、授乳服ブランド、モーハウスの青山店。茨城県つくば市に本拠を構える同社といえば、子連れ出勤という働き方を提唱していることで知られ、代表の光畑由佳氏は子連れスタイル推進協会をも通じて、そのコンセプトや実践的なアドバイスを紹介。本社はもちろんこの青山店でも販売スタッフの方が赤ちゃんとともに店頭に立っています。

過去には、赤ちゃん連れで親族の結婚式に参加していた女性が駆け込んできて大ピンチを切り抜けたエピソードもあるこのお店。いつもとはおっぱいを飲む状況やペースが違うために、その女性の赤ちゃんが口の中のものを戻してしまい、着用していた黒いドレスが胸元から裾まで濡れて、染みがついてしまう悲劇が起こりました。一族揃って写真撮影の真っ最中にこのハプニング、「あそこなら、授乳ができてドレスに見える服があるはず!」と彼女はモーハウスでドレスを購入して一目散、会場へと戻ったのでした。

戦後の高度成長下、男性が長い通勤時間をかけて会社に仕事をしに行くようになってから、子育ては母親に委ねられるようになりました。核家族化が進んだことで、赤ちゃんの脳が急速に発達し他人と自分との境界を理解し始める大事な時期に、人間関係は母と子中心というケースが普通になったんですね。たいていの日用品や食材がネットで届くために家にこもりがち。現代は、そんな産後の女性も多いかと思います。かつてはお宮参りを機に幼子は外出する場面も増え地域の人と関わりをもつようになるのが自然でしたから、本来はこどもを連れて社会にでるということは、当の母親が解放されるのはもちろん、こどもにとっても家族以外のおとなを目にする良い機会となるもの。産後の女性が臆することなく外へ出てアクティブに過ごす、ひいては働くうえで、授乳をいかにするかは切実なテーマですし、私たちは独自に開発した「肌が露出せず自然に授乳できる授乳アイテム」でそこに向き合っています。

そう語るのは、同社の授乳服アドバイザー宍倉千代さん。自身もちょうど10年前、青山店(現在とは異なる場所)に立ち、赤ちゃん連れで仕事をした経験があり、その娘さんが当時の様子を「とにかく、みなさんがやさしいことです。あとお店の中が楽しかった」とお産ポータル 子育てネットにて語っているほど、母親である宍倉さんの働く姿は鮮烈に脳裏に焼き付いていたのだそう。今となっては働くお母さんを「大好きです。とくに頑張って仕事にうちこんでいる姿です。かっこいいからです」と振り返るようにまでなっています。

以前、NHKの『クローズアップ現代』でモーハウスの取り組みが放送された際、取材に訪れたカメラクルーが「どう狙っても(おっぱいが)見えませんね」と驚いたほど、あらゆるアングルからも乳房や乳首が見えない授乳服。見た目もごく普通で授乳のための所作、身のこなしもさりげなく見えるデザインゆえ、周囲に気を使わせるという心配もほとんどありません。また、2012年には銀座で総勢、30人の授乳ママによるパレードを行った際には、授乳している様子があまりにも分からな過ぎて注目が集まらず、急きょ苦肉の策で「授乳中です」というプラカードを作成、首からぶら下げてイベントを続行したこともあるのだそう。

このような画期的なアイテムは産後の女性がより快適に暮らすための社会貢献としての側面も持ち合わせていると言えそうです。人目を気にせず授乳ができる点は働く女性にとっても頼りになるポイントではないでしょうか。

一方、赤ちゃんと離れているオフィスでのおっぱい事情を考える際、ご紹介したい企業が2月の本社移転の際に「Mothers’ Room」というさく乳室を設置したスイス企業のメデラです。以前のオフィスでは復帰した社員のために会議室を時間帯で区切って授乳スペースとして確保していた経緯があり、今回はそれをさらに拡充した措置と言えます。

DSC08420煌々と明るい執務エリアとは、がらりと雰囲気が変わる間接照明の落ち着いた空間。

「産休・育休から復帰する女性社員がいる企業にとって、参考となる先行事例にもなればという思いもありました」と語るのはマーケティング部の菅谷さん。

先頃、メデラが行った調査によると、産後に復帰した女性の約半数が母乳育児を続け、職場でさく乳をしたことのある女性の6割が「トイレでさく乳をしている」という実態が浮き彫りになりました。ごく一般的なオフィスなら確かに人目につかずにさく乳できるような場所が見当たらないのは想像できます。しかしその多くがトイレで行わるざるを得ないとあっては、ただでさえ時間に制約があることが多く気まずい思いをしている産後の女性が、職場で気を使う場面が増えて心理的な負担になってしまうのも無理はありません。

このアンケートでは母乳をあきらめることなく、回答者が仕事を続けるにあたり欲しているのは「仕事をしながら母乳育児を続けるための具体的な方法に関する情報(70%)」が筆頭、次いで「さく乳室の設置」、続いて「さく乳を勤務時間に認める就業規則」と、ハードとソフト両面から職場環境の整備が求められていることが明らかになりました。

DSC08522メデラ株式会社 ブレストフィーディング事業部 広報担当 菅谷さと子氏

帰宅後、赤ちゃんに飲ませてあげるために母乳をキープする人もいれば、胸の張りを解消すべく“排乳”するためにさく乳する人もいますので、スタイルはそれぞれ。「こうあるべき」というメッセージではなく、この調査結果が議論のきっかけになればと考えています。産後に職場復帰する女性がいる企業の方から「出産後早期に復帰する社員がいるのですが、何を用意すればよいですか?」 というお問い合わせをいただくことがあります。理想的には専用の施錠できる部屋、冷凍庫、水回りがあるといいのですが、実際には工事が発生するような取り組みは難しいですよね。専用の空間ではなくても、プライバシーを確保でき一定時間使え人から干渉されないスペース、母乳を入れる冷凍庫があるといいですね。

四六時中、会議室やパブリックスペースが占有されていることはむしろ稀でしょうから、従業員が使っていない時間帯のオフィス空間の遊休利用として、こうした取り組みが広がっていくことを願うばかりです。

同社では上記の「Mothers’ Room」の見学も随時受け付けているので、興味のある方はぜひお問い合わせを。

さく乳室ご見学お問合わせ先

電話:03-3373-3453

メール:marketing@medela.jp

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ちなみに、メデラの企業キャラは可愛らしいコウノトリでした。
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