子育てママばかりを優遇することには違和感が…(きっぱり!)

関東圏でサービスエリアを次々に拡大しているスマートシッター。熱い思いを胸に秘めたママ、パパが立ち上げた注目のプロジェクトですが、同社の親会社であるグリーもそんな家族思いの社員を多く抱える大企業です。創立10年を迎え、こどものいる社員も増えてきた組織の課題はやはり働き方。

「育児や介護といった働く上でのライフステージの変化に左右されず、誰もが会社で能力を発揮できる会社にするために、GFSPの各施策を通じ、より働きやすい、活躍しやすい環境を社員のみなさんに提供します」。なんとも頼もしい文言が企画書の冒頭に踊るプロジェクト、その名もGREE Family Support Program(以下、GFSP)。

もちろん、スマートシッター利用の補助も盛り込まれ、子育て期にある社員を「家族単位」で大事に考えていることが“掛け声”ではなく“約束”として謳われていることが一目瞭然。

このような手厚い福利厚生制度を整えるきっかけを作った担当者はさぞや、ママ社員の要望をとことん汲み取ったはず…と思いきや、「子育てママばかりを優遇することには違和感があるんです」と意外にも手厳しい。自身もママである斧佳代子さんにその真意を尋ねてみました。

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グリー株式会社人事本部 人材開発部マネジャー斧 佳代子氏

実はやらなきゃいけないことに間違いないという認識はありながら、即座に取り組むところまで社員の本気度が到達していない、そんな状態が長く続いていました。

私自身は現地法人の立ち上げで韓国に赴任していた時期に妊娠が発覚。はじめは月1の検診で日本に帰国していましたが、検診が2週間に1度のペースになった時点で完全に本社に戻りました。

私が職場復帰した2014年の4月は、さまざまな意味でGFSPの整備をさらに推進するいいチャンスでした。育休明けが近づくにつれ、社内に前述の課題があることを知らされ、「わたしそれやります」と手を挙げたことが発端です。

2013年の4月にママ社員が約20人を越えたのが一つの契機。彼女たち曰く「有休を使いながら、悲鳴を上げて育児と仕事を両立していた」。時を同じくして、そうした女性社員たちが「ママたちで集まろうよ」と結束を固めようとしている動きもありました。

さらに翌年4月、初の「ファミリーデー」が開催されました。ところが!ママ社員がこのイベントに参加しなかったんですよ。なぜかというと、それが平日の開催で「こどもを休ませてまで、会社に連れていくのは気が引ける」、他の社員が通常業務にあたっているなか、イベントが催されているため「会社にいるのに後ろめたい」というものでした。イベントが終わった後、連れてきたこどもをどうするか。有休をそこで使ってまで参加したいものなのかというごく当たり前の思いをいだくことに。

人事本部に届いたこのような声を私がさらに深掘りしてプランを練りましたね。まずは先輩ママ社員にヒアリングを重ね、次いで社外の先輩にヒントを求めることにしました。

グーグル、伊藤忠商事、サントリー、JT、オリックス、リクルート、そして楽天、ヤフー、サイボウズ、サイバーエージェントなどの先輩IT企業やGEなど、思いつくまま大手企業で実践している事例を尋ね歩いた斧さん、それらはすべて友達を通じての独自調査です。彼女にとってふたつ前の職場にあたるパナソニックもそこに含まれていました。東京の大学を卒業後、同社と次に勤めたベンチャー企業で大阪勤務、そしてグリー入社で東京へ戻り、海外転勤を経てまた東京へと。彼女としてはいま珍しく“定住”、子育て期ならではの安定したリズムのなかで働いています。

当然といえば当然ですが各社の取り組みにはかなり差がありました。盛りだくさんな制度もあれば、必要最低限に絞った制度もあり、運用を開始してから頓挫した例もありました。失敗した理由がママ社員の要望をすべて反映させたら「腰かけ社員」が増えてしまったらしいのです。この部分については大いに共感するところがあり、私自身にもグリーはみんなが会社をよくするために一丸となっていて欲しいという個人的な思いがありました。一部の声を極端に組織全体に波及させるのではなく。

社内外の声を集約し、制度のたたき台を完成させたわけですが、それをママ社員にフィードバックせずに、すぐ上層部へ持ち上げたのには理由があります。私も含めママ社員の要望は次から次へと出てくることが予想されましたので、ある程度、会社として妥当なラインを自分で引いてみて、とにかく早く運用を開始することに力点を置いたのです。最短距離を行くために、用意を周到にした感じでしょうか。

4月末に復帰、5月中に課題をまとめ、同月末には経営層に上申、社内規程を改定する必要があるため6月の取締役会にかけ、7月1日からスタートというスピード感。これはグリーにとって異例の速さではなく、プロジェクトの進捗としては標準的な意思決定プロセスなのだそう。

ただ、本件に対する社員の関心は高かったですし、経営層にも響きやすいテーマだったのは確か。「優秀な社員に長く働いてもらいたい」という切実な思いがあり、モチベーション向上につながる施策として「女性が復帰しやすい」「女性社員だけでなく、奥さんが同様にたいへんな時期を過ごしている男性社員たちも利用できるもの」にすべきなのです。制度の名称にファミリーを入れているのもこうした考えから。

弊社は2010年頃、社員数で200~300人規模のベンチャー成長期の時代は働くことがとにかく好きという社員が多かったんですよね。一方で結婚や出産とライフステージが変化する社員も増え、そういう働き方を見直すという機運がそのあたりから自然に高まりましたね。ちょうどその頃、こどもがいる役員も増えたのも大きいと思います

とは広報室マネージャー入山真一氏の弁。彼のお子さんはすでに小学6年生と2年生。「ぼくの時代にこの制度があったらよかったな」と悔やむと斧さんが思わず失笑。ちなみに、同社の男性社員による育児休暇取得数は予定も含めて約10人と多く、また、GFSPを利用する男性社員数も多い。

本プログラムが提供する子育てサポートの全体像は「結婚休暇」を皮切りにスタート、以後、こどもが小学生を卒業するまでを見据えたもの。ファミリー在宅勤務は、こどもが登園禁止になってしまった場合や妊娠中に体調がすぐれない時などに利用が可能となり、同様の理由でファミリー休暇として有給も5日が新たに付与されました。時短・時差出勤も小学校卒業まで延長されかなり勤務がフレキシブルになりました。利用時に対象となる家族はこどもはもちろん自分の親、妻、さらに配偶者の親までを範囲としていますので、『父親が手術した際に休暇を取得した』『妻が妊娠したので検診へ同伴、その時に時に休暇を取得した』など、今のところ社員が制度の枠組みを上手に利用している印象はあります。

月最大2回と部分的に認められている在宅勤務は、会社の基幹システムにアクセスできないため部署や業務によっては不公平感に欠けるなどの課題があるのは確かですが、おおむね社員には好評ですね。福利厚生ほか諸制度のメニューは多岐にわたり、自分が該当していることを正しく理解していない社員がいることも想定されるので、今後はさらにGFSPの周知徹底を図っていきたいですね。パパ、ママ社員を集めてランチ会を開くなど、伝わりやすいカジュアルで非公式的な催しを模索していきます。

個人的なポリシーですが、育児はひとりでは絶対やらない。これを信条としています。母親はほぼ専業主婦、父親は海外での単身赴任が15年と長い、そんな家庭で育ちました。ビジネスパーソンとして父親のようになりたいとさえ思っていたほど彼を尊敬していますし、母親は子育てのエキスパートとして完璧に信頼していました。ふたりは近くに住んでいるので遠慮なく助けてもらいます。両立する上で頼む、頼ることに後ろめたさを持たないようにしています。もちろん申し訳ない気持ちもありますが、そうやってママ(パパ)以外のさまざまなおとなと触れ合う機会はきっとこどものためにもなる。知人や友人もしかり。プレイスポットに詳しい人はこの人、グッズならこの人という具合に。それが得意な人をとことん頼ります。育児も仕事も自分が楽しむことがいちばん大事。そのために誰を巻き込むかについて、なりふりは構いません。

2歳のこどもが先日、はじめておじいちゃんおばあちゃんの家に泊ったんですね。夫と「うちの子、巣だったね~』などと送り出して(笑)。このことを同じマンションに住むママ友に話したところ、うちじゃありえない!ってびっくりされました。「親が怠けるとこうなります(笑)」と。自分で何でもやろうとすると、とてもしんどいので、信頼できる周囲をどれだけ自分の子育てに「参加してもらうか」がカギなのだと思っています

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