「こんな私でもなんとかなる。そういうことを伝えたかったんです」
“余命4日”というあまりにも突然の非情な宣告、父の急逝をうけて主婦業から社長へと転身。その後の会社再建10年間をつづった『町工場の娘』が話題の著者、諏訪貴子さん。女性が働くこと、チームを束ねて大きな仕事を進めるためのヒントを求めて物語の舞台であるダイヤ精機株式会社を訪ねると、彼女は見るからにオープンマインドな雰囲気、そしてキーの高い声で出迎えてくれました。
ランチタイムに節電するため照明を落とした工場内にて。最新式のマシンと年季が入った機器が同居する空間は、新旧世代が共存するダイヤ精機を象徴するかのよう。会社経営は子育てに似ている部分があるかもしれないですね。工場という職場だからこそともいえますが、おかみさん経営、相撲部屋みたいに?(笑) 地域に密着している感じや同じ部屋を四六時中ともにしている感じですとか。入社した年次で「5年生、6年生の子たち」などと言ってしまうことがあるのも、会社というより別の場所のような意識が働いている気もしますし。弊社の場合、熟練の職人をのぞけば成長過程にある若い社員が多く、ついわたしも「この子」といってしまうのですが。そういう意味では子育てを経験した女性であることが有利に働いているといえるかもしれません。
教える、伝える、育てるということについていえば、その子に適した教育方法が必ずあって、それを間違えてしまうといくらその子に素質があっても伸び悩む可能性があります。その最適な方法をみつけるためには、彼らと向き合う時間が必要。私が考案した「交換日記」を通じて社員とコミュニケーションを図ってみると、人柄や考えていることにそれぞれ違いがあることが如実に表れます。内容はもちろん筆跡や書き方など、みんなばらばら。まずはそうした違いをはっきり理解することが大切。
女性と男性という区別で言うと、若い世代はさほどその差を気にしている子はいない印象がありますが、やはり40代以降の方の中には性別による役割分担など古い価値観や常識が根強くあるのは確かですよね。日本の会社はそういう場所です。子育てをしている女性が働く場合、そういう方が経営者、上司ということがまだ普通だと思うので、たいへんな局面もあるとは思います。でも、子育てで一時的に仕事から距離を隔てて、また働く意欲や関わりたいプロジェクトがある女性にはぜひ臆せずにチャレンジしていただきたいですね。意外と女性って強いですし。
私にも女性であることを思い悩んだ時期がありました。でも、ひとつの転機がありそれ以降はすがすがしいほどに。「社長はたまたま女だっただけですよね。社長は社長」。あるとき、そう社員に言われたことで、女であることから吹っ切れました。それまで経営者が女性であることがデメリットとなってしまう経験をいやというほどしましたし、負い目を感じていたのは事実。取材などを受けメディアに登場することも避けてきました。製造業は男性中心ですがやる気があれば、結果を出せば男性も女性もない。肩の力が抜けて楽になりました。30人の町工場といえば、大企業ですとひとつの部署みたいな感じですから私の転機、気持ちの切り替えは参考にしていただける何かがあるかもしれません。
家庭との両立もたいへんですよね。私が経営者であり働いているために、主人の健康を害してしまったりすることは堪えられなかったので、どんなに彼の帰宅が遅くてもその場で料理を作ることは続けてきました。夜10時に帰ってきて朝5時に出るみたいな時期も。息子がいたとき(現在、アメリカはアラバマ州に留学中)はお弁当作りも含め1日6回作ってましたから。意地ですね(笑)
新卒で就職したユニシアジェックス(現・日立オートモティブシステムズ)の同僚との一枚。配属となった工機部初の女性エンジニアとして好奇の対象に。右から3人目が諏訪氏男性ってあんまり褒めないんですよね。褒めるのが難しいと彼らから聞くことがありますが、褒めるほうがよっぽど楽、怒るほうがはるかにエネルギーを要します。人は集団で行動する生き物なので、否定されるより、肯定されるほうが心地よいし、笑っていたほうがいいに決まっています。自分ができないことをできる人を素直に称賛する。そこに特段、スキルは要りません。他人から認められる雰囲気があると組織は自然に活性化します。
ちなみに先代の社長である父とは褒めるタイプが違うんです。父は私の自慢をいろいろなところでしてくれましたね。私のいないところで。2012年に「勇気ある経営大賞」をいただいた時、社員と歓談している際に私が「会社の未来を(主婦だった)私に託したあなたたちのほうが勇気あるよねぇ」と言うと「え、知らないんですか?」と。後継者として私を銀行やお取引先など各方面に推して、時間をかけて根回しをしていたのは父だったんです。会社を2度もクビになった(このエピソードはぜひ本の中で)この私を。
働く女性へのアドバイスとして、とにかく考えたことを書き出すことをおすすめします。そして、それら断片的なものを関連付けていく。ことばや文章はもちろん、図や絵を描くことも含め。そうすると物事の本質が見えてきます。問題を浮かび上がらせてグループ化、解決にあたり適任の部署や担当者へ委ねる。論理的に思考、会話する男性に比べると女性はその場その場でことばにしてはそれきりみたいなことが往々にしてあります。ですので、あとから振り返りそれらを意味づけするために書き出す作業がとても役に立つんですよ。
10 QUESTIONS
座右の銘は?
人には幸も不幸もない。考え方次第である(シェークスピア)
無人島に持っていきたい本は?
英会話の教材
好きなアーティストは誰?
加藤ミリヤ
家族の思い出でいちばん記憶が鮮明なものは?
長男の出産
旦那さんの「ここが好き」を教えてください
真面目なところ、応援してくれる姿勢
最近、購入した自分へのごほうびは?
バカラの招き猫
100万円あったら、どのように使いますか?
海外へ社員旅行
生まれ変わったらなりたい職業は?
ダイヤ精機の社長!
世の中の「ここを直したい」を教えてください
モチベーション
幼い頃の自分にひとこと
頑張れ!! 楽しい未来が待ってるよ!