国を相手に訴えたクリエイティブ。“いいね”の嵐が一冊の本になりました。

ほ乳びんの飲み口におびただしい数のまち針が突き刺さっている。痛々しさの一方で、淡いトーンの背景に色鮮やかな球が踊り、どこか快活な雰囲気もある。問題提起にかけるエネルギーだけでなく赤ちゃんへのやさしさをも画面に留めて明るい未来へ希望を託したこのビジュアル。

そして、強度のあるコピー「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。

2014年1月、扇情的なビジュアルと挑発的なコピーのインパクトによってSNSを通じ瞬く間にシェアされたフレーズ。これを機に紡がれた記事の数々がこのほどタイトルもそのままに待望の書籍となりました。コピーライター境 治氏によるブログがハフィントンポストに転載されfacebook上で17万もの“いいね”を獲得。共感の輪が大きく広まるとともに、その名も三輪舎という設立間もないインディペンダントな出版社から発売の運びに。CCF20141218_0001「涙が出た」「救われた」「これからも頑張ってください」「今後の記事も楽しみにしています」。そうした声が相次ぎ子育て世代の特に母親から熱烈な支持を得て、拡散された一連の投稿記事が男性から発せられたことは何か暗示的といえそうです。

「子育てパパの自負心を木っ端みじんに打ちのめされながら何か大きなことを知ったのだと思う」と自身の子育て期を回顧している境氏。イクメンということばがまだない当時より育児が理不尽な営みであることを体感している彼だからこそ、現代の子育てを取り巻く環境、社会の在り方に正面から異を唱えることができ、その主因が男性にあるとあえて主張できるのです。問題の核心に迫るまっすぐな感じがそのままタイトルに表れているのは実に爽快。

女性が子どもを産めば「母親」という超越的なパワーをもつ存在となり、何があっても微笑みながらすべてをこなす、などというのはイメージに過ぎない。だが男性社会は、そんな完全無欠なイメージを母親に押しつけてきたのではないか。

直接の契機は2013年末から2014年初頭にかけて世間を騒がせた、やはりSNSでの投稿でした。帰省や旅行などで交通機関を利用した子連れ家族を狙い撃ちした辛らつなコメントが発端となり炎上騒ぎが勃発。赤ちゃんの泣き声という“制御できない”自然現象をどう捉えるのかを巡り賛否両論、世論はまっぷたつ。そこで彼は思い立ち「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるだろうか。」と草稿。問題の本質をよりシャープにすべく文末を「増えるはずがない。」と改定。わずか4、5文字との格闘はやはりご職業柄、そしてこの細部の変更により強烈なメッセージ性を秘めることになります。

この騒動に先立ち、「母親に孤独を強いる」ものとして現代の核家族化に疑問を呈することから境氏による社会への問いかけは始まっています。本書は核家族化によって解体された絆、失われたコミュニティの機能を探し求め保育の現場、行政、子育てに関連するサービスを展開する企業、海外の事例など1年がかりで取材し得られたリアルな証言や事実をまとめたもの。そのいずれもが女性が主導し社会を変革する実績となっていることを伝えています。

もともとはメディア論を展開していた氏のブログ上、“赤ちゃん”の投稿が実は社会実験としての試みであったことを彼は誌上で告白しています。つまり、ここまで波紋が広がることは予想だにしていなかったということ。発言にあたり子育ての専門家ではないと立場を明確にしていたり、全編にわたりインタビュワーとしてのスタンスを徹底していたりと、一歩引いた立ち位置で境氏は諸問題と向き合ってきました。しかし、事の広がりを前に「その時限り」ともはや割り切ることはできないムードを察知、今後の展開を模索している境氏がどのように社会の要請に応えるのか今後も注目したいところ。

ちなみに版元である三輪舎の代表を務める中岡祐介氏は会社設立のきっかけが自身の第一子誕生にあるとし、さらに今回、第二子の出産予定日が出版記念イベント開催の翌日に控えていた事実も興味深いかぎりです。

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