ワーキングマザーの大先輩が歩んだ人生に刮目

現在、御年78歳の女性。「無名の偉人」として突如、スポットライトが当てられたワーキングマザーの先達、木全ミツ(きまた・みつ)さんにまつわる書籍『仕事は「行動(やったこと)」がすべて(伊藤彩子 著/WAVE出版)』がこのほど刊行。

0849 木全ミツ(帯あり) (2)

女性キャリア官僚という前例のない道を切り拓いたのち、国連公使として各国代表と渡り合う日々。その後もエシカルな企業の先駆的存在ザ・ボディショップジャパン初代社長、NPO法人JKSK(女子教育奨励会)初代理事長といった要職を歴任し、今なお教育や震災復興などの活動を絶やさない、その60年に及ぶ仕事人生を駆け足に伝える本書。

輝かしい表舞台での来歴からすると意外ですが、お茶くみからスタートした彼女の仕事の流儀は決して「私が、私が」と前に出るスタイルではありません。日々の小さな努力の積み重ねにより得た信頼が自然とそうした大きな流れを作り出したもの。

結果として、前任者がいないパイオニアとしての仕事を次々と実践していくことになります。「まったく新しいことにチャレンジする。前例がある場合も、前例通りにはやらない」「ロールモデルがないなら、自分がなればいい」という彼女の信念、ことば通りに進んでいくことにすがすがしさを覚える展開です。

就職、というと、みなさん『組織』に就職することを指します。でも本来は、『職業に就く』ことを就職というのではないでしょうか

人生で、何が何だかわからないけど、猛烈に〇〇したい、というときがあります。その内なる声にはしたがったほうがよいと思います

ミツさんにそう指摘されると思わずはっとして「その通りです!」と背筋が伸びる思いがいたします。自分にとっての職業とはなんだろう?? そう自分と向き合い内省せざるを得ない説得力が全編にみなぎって、「ことば」ではなく「行動」によって周囲の状況を好転させる奥義が明らかにされています。

女性としてのユーモアやチャームも随所で語られ、お仕事一辺倒ではなく、常にはつらつと人生を謳歌して周囲を明るく前向きにさせながら生きる姿が印象的。

自身の出産日を当てた人に豪華賞品を差し上げます!と職場で呼びかけ、彼女の出産を楽しみにさせるというユニークな巻き込み方。それはチームメイトに迷惑がかかることを懸念し「歓迎されるまでいかずとも、憎々しく思われずに出産を終える方法はないだろうか」と思い悩んだ末に舞い降りたアイデア。

出産後も「この子は、社会の子どもとして育てたい」と、兄弟や家族から名前を公募するなど、とことんオープンマインドでコラボレーションがお上手な方なのです。復帰後の他者の巻き込み方もしかり。先輩からの紹介で、集団就職で上京した女性に住み込みで子育てをサポートしてもらう日々。「お手伝いさん」「子守さん」「ベビーシッターさん」ではなくパートナーとして接しながら育児や家事を分担、夫や義母にもそれぞれが得意なことで家庭生活に参加してもらうなど、自分の能力や限界を見極め、適材適所で他人の力を動員、発揮するのでした。

「40代後半からは、働く女性としてアブラがのった最高の時期です」と49歳にして、国連公使という未知の任務にもあたる。国連本部があるNYへ赴任した際には、仕事で関わりがある男性から独身と勘違いされて求愛を受けるという珍事も勃発。そこで、繰り広げた作戦は夫と息子のそっくりさん人形(ぬいぐるみ?)とともに玄関で彼を迎え入れるというもの。呼び鈴が鳴り、ドアの向こうで男性がふたりも在宅していることにゲストはびっくりしつつ思わず失笑。

「結婚30条件」という運命の人に求める厳しい基準をクリアした男性とのなれ初め。その夫がハーバード大学留学の直前にがんとなり、退職を決断するくだり。愛息のひやひやする言動にもうろたえず「見守り、尊重する」子育て期。午前4時半に起床して認知症の義母をお世話した介護時代。社会で働く人物像を描きながら、その一方で奮闘する家庭人としての芯の強さもていねいに活写しています。

したたかさとしなやかさ。人生にはきっとそのようなふるまいが必要なんだと思わせてくれる一冊です。

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